このブログで紹介している登山ルートの状況は、現在の当該ルートの状況を保証するものではありません。
山行に先立っては、必ずご自身での情報収集を怠らず、安全な計画を心がけてください。

2013年2月13日水曜日

山行記 : 2013年2月9~10日 西穂独標(敗退) 2日目 残念な敗退と下山


(この記事は「1日目 西穂山荘まで」編の続きです。)


山の朝は早い。
というか、早いにも程がある。

そもそも、隣で寝ているおっさんが消灯以後も30分ごとに叫び声を上げるので、びっくりしてロクに眠れなかった。
山小屋泊は、同宿の人の当たり外れが激しいのがタマにキズだ。

おかげで、朝もおちおち寝てられず5時すぎには寝床から起きだして、部屋の外でパッキングを始めた。
こんな朝は嫌だ。

外を見ると、吹雪。
前日夜のブリーフィングのとおりの展開だ。嗚呼・・・。


朝食は5:45から。

あんまり食欲は無いが、無理やり詰め込む。

同じテーブルになった人達は、やはり外の吹雪を見て、一様にテンションが下がり気味だ。
無理もない。

早々に朝食を切り上げて、出発の準備に取り掛かる。
宿泊客は全体的に、準備のスピードが遅い。みんな、出発をためらっているのだろう。

僕としては、どうせ天気の回復が見込めないのであれば、さっさと突撃してさっさと下山してしまうのが良かろうと考え、早々に山荘を出た。
時刻、6:41。
まだ日の出前だ。
ニシホくんの背後にも、寒々しい風景が広がる。

風は強いものの、雪の降り方はそれほどでもない。

前日のブリーフィングでの風速予報は18mということだったが、実際に稜線に上がると、それぐらいありそうな気配がする。少なくとも、風の音は容赦の無い勢いだ。
気温は、小屋の入口前に設置された温度計で-14℃。ということは、稜線はもっと寒いはず。
風のことも考えると、稜線上では体感温度は-30℃以下というところか。
それなりに覚悟して向かわねば。

ということで、バラクラバをかぶり、メガネの上からゴーグルをはめる。
すると、バラクラバの呼吸穴がズレて口や鼻が塞がれ息苦しくなる。
あわててゴーグルを外し、バラクラバの位置を直す。
そんなことをモタモタと3回ぐらい繰り返しているうちに、メガネやゴーグルの内側に水滴が付いたりする。
すると、ゴーグルの内側が見事に曇る。
あわててゴーグルの内側を拭く。
またゴーグルをつける。
ゴーグルの中でメガネが曇る。
またゴーグルを外してメガネを拭く。

もう、軽くパニックである。

オレは無声映画のスタンドアップコメディか。


というわけで、見切り発車で出発する。

すでにゴーグルが曇って、山荘から丸山へ向かうトレースが見つけられない。
燕岳ではこんなに激しく曇らなかったのに、おかしい。

あとで知ったのだが、僕が使っているようなグラスが二重構造になっているゴーグルは、曇り止めを塗ってはいけなかったらしい。
そんなことを知らずに、出発前日に曇り止めをたっぷり塗ってしまったので、それが曇りの原因かもしれない。

モタモタしているうちに、時間ばかりが過ぎていく。
もうラッセルでもなんでもいいから、とにかく大体の当たりをつけて登ることにした。
股まではまりながら、なんとかトレースらしきところにたどり着いたら、途端に歩きやすくなった。
クラスト万歳。

サクッサクッとアイゼンを効かせながら快適に登っていく。が、視界は相変わらず悪い。ホワイトアウトもしていたが、それ以上にゴーグルの曇りの問題だ。
登り始めて5分で振り返ると、山荘とテント村の姿が寒々しい。
こうして見ると、本当に森林限界のキワのところに山荘が建っているのがよく分かる。

昨日のブリーフィングでは、ホワイトアウトで帰り道がわからなくなった場合、森林限界に沿って歩けば山荘にたどり着く、というアドバイスを貰ったが、まさにその通りだ。

稜線に出ると早々に、発達したエビの尻尾に出食わす。

実際、このエビの尻尾に恥じないような強風が、西側からバンバン吹き付けてくる。
その風は、登りの際には進行方向左から吹き付けてくるわけだが、油断するとよろけてしまって危ない。
風速の目安の表で見ると、風速15mぐらいだったと考えるのが妥当だろう。

そんな中、黙々と稜線を進む。
もはや写真では、どこが稜線だかもよく分からないぐらいホワイトアウト。
僕のゴーグルはすっかり内側が凍り、さらに視界が効かなくなってきた。
かぶったフードは風に煽られて、耳元でバタバタと激しい音を鳴らしている。

ああ、この感じ、冬山って感じでワクワクする。
ゴーグルが凍ってしまったこと以外は、すこぶる楽しい。
ナイフリッジを歩くわけではないので、、カラっと晴れるか、ガッツリ荒れるかでないと、面白くない。

凍ってしまったゴーグルでは足元を見ることも覚束無いので、ゆっくりと探り探り、足場を確認しながら丸山に向かう。

7:18、丸山の手前のケルンにたどり着く。
拡大しないと見えないかもしれないが、ケルンの向こう側には丸山山頂の標識が立っている。

7:22、西穂丸山山頂に到着。

なんも見えん。
このあと、進むべきか戻るべきか迷っていると、少しだけガスが薄くなって、西穂独標方面が見えた。

これも、写真じゃ全然分からないかもしれないが、肉眼では先行する3人パーティが歩いてるのがうっすら見えた。

先に進みたいという欲望と、凍ったゴーグルではもはや山荘に戻るので精一杯ではないかという危惧が入り混じる。
が、ゴーグルを装着して進行方向を探そうとしたら、もはや赤旗のついた竹竿すら見つけられない状態になっていたので、これ以上先に進むのは無理と判断。
山荘に引き返すことにした。

ゴーグルをしたままでは、帰り道ですら足を踏み外して滑落しかねないので、吹雪の中をゴーグル無しで歩く。
バラクラバから露出している部分を風からかばいながら歩くのだが、冷えすぎたのか、カキ氷を一気に掻き込んだ時のような痛みを眉間に感じた。

7:40、西穂山荘にたどり着く。
体力的には非常に物足りないが、ゴーグル無しではこれが限界だろう。

レストルームに入ると、ご飯の際に同じテーブルだった若者がいたので、
「丸山まで行ってきましたよ」
と声をかけると、レストルーム内がざわついた。
どうだったかと様子を聞かれたので、風が強い件と、ゴーグルが凍ってどうしようもなかった旨を話すと、その若者の他、レストルーム内で出発をためらっていた人々が一様に意気消沈した。
ああああ、、、悪い話しちゃったかなぁ。。。


さて、今このまま下山してロープウェイが稼働していないので、しばらくレストルームで時間を潰す。
せっかくなので、自販機でコーラを買ってみた。
350ml缶なんて、下界ではそうそうお目にかかれない。300円也。

さすがに2時間前に朝ごはんを食べたばかりなので、名物の西穂ラーメンを食う気も起こらず。
行程が順調なら、お昼に食べようと思ってたのになぁ。。。

8:10、西穂山荘を出発して、ロープウェイに向かう。
始発は9:15なので、到着して荷物をまとめてちょうどぐらいかなと。

吹雪のおかげで、トレースはふかふか。
といっても、トレースが消えるほどではない。なにせ、昨夜は星空だったのだから。

風は樹林帯に入ると一気に静かになる。
まー、こうなると思って気楽に構えてたんだけどね。

アイゼンもピッケルもすでに収納済みで、靴底で滑るようにして下る。
靴底だけでは済まず、尻セードでバンバン下る。
雪遊びみたいで、子供の頃を思い出す。


8:44、雪の回廊に到着。

雪の回廊ではバージンスノーを味わえた。
綿帽子のような雪を蹴散らし蹴散らし歩く。そのたびに、まるで重さが無いかのようなふかふかの雪が足元を舞った。

8:50、ロープウェイの西穂高口の駅に到着。

雪を払い、オーバーパンツやグローブなどを脱いでパッキングして、自販機でかったコーンスープを飲みながら始発を待つ。
なお、缶のコーンスープは、缶の横っ腹を少し凹ませて飲むと、流体力学がなんたらでコーンが最後の1粒まできれいに飲めるというのは、まさに知っ得情報。(→参考サイト


これにて、僕の西穂独標の旅はあっけなく敗退に終わった。



(「総括」につづく)



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