このブログで紹介している登山ルートの状況は、現在の当該ルートの状況を保証するものではありません。
山行に先立っては、必ずご自身での情報収集を怠らず、安全な計画を心がけてください。

2013年9月7日土曜日

山行記 : 2013年8月20日~8月23日 槍ヶ岳~大キレット~穂高縦走 3日目その2 北穂~横尾



(この記事は「3日目その1 ついに大キレット」の続きです。)


北穂高岳に到着した喜びを噛み締めつつも、このあとの行動計画を立てる。

昨夜友人が携帯メールに送ってくれた天気予報によると、明日は昼前から大荒れになるそうな。
もちろん、大荒れになる前から天気がグズつくのは当たり前。
雨の涸沢カールを下るなんて、できれば避けたいシチュエーションだ。

ということは、遅くとも今日のうちに涸沢までは下りておかなければならない。
できれば、横尾まで降りておけば、なお安心だ。
このまま直接涸沢に下りてしまうか、それとも奥穂高を経由して下りるか、悩む。

ただ悩んでいるだけでは時間がもったいないので、昼飯を食べる。
昼飯は、槍ヶ岳山荘で作ってもらった、名物のちまき弁当だ。
これが、美味しい上にけっこうボリュームがある。
ありがたいことこの上ない。

食べ終わる頃には決心がついた。
今日はこのまま直接涸沢に下り、さらに横尾まで下ってしまおう、と。
雨の中を歩くのはもうウンザリだ。

そう決心したら、あとはさっさと下りるに限る。

北穂高小屋の売店前を抜け、石段を上がる。
この石段を上がると、そこは北穂高岳の山頂だった。
だだっ広い。

あいにく、ガスに覆われて何も見えず。
早々に山頂を去って、涸沢方面への道をたどる。

途中、ガスが濃すぎてどれが南峰だかもよく分からないまま、とりあえずとんがったところを写真に収める。
でも、これ、どう見ても南峰じゃないよなー、、、

分からないまま、12:02、涸沢と奥穂の分岐に至る。
たぶん、この分岐の山側の方がまさに南峰だったんだろうけど、この時点ですでに涸沢に下りることしか考えていなかった。

というのも、このすぐ手前の鞍部から涸沢がチラっと見えたからだ。
人生初の涸沢カールに心ときめき、居てもたってもいられない。
心はすでに涸沢カールだった。

分岐のすぐ下からは、東稜越しに北尾根と屏風ノ頭が見えた。

吊り尾根らしき場所もかろうじて見えたが、イマイチ確信が持てない。
いつか、北穂~奥穂~前穂へと縦走をしたい。吊り尾根万歳。

北穂の南稜は、石がゴロゴロであまり歩きやすくない。
岩峰なんだから当たり前と言えば当たり前なのだが、大キレットで使い切った体には、なかなか堪えるものだ。
そのうち、東稜の小ピークが長谷川ピークに見えてきて、軽くうなされそうになる。

標高を下げるごとに、次第に石ゴロゴロというよりも、岩がゴロンゴロンという感じになってくる。

同時に、標高を下げたことでガスの下に出て、視界が効くようになる。
ここからなら、屏風ノ頭も、
北尾根も、
クリアに見渡せた。
これぞまさに、山の贅沢。

12:19、荷揚げのヘリコプターを発見。
無性にテンションがあがり、うっかり手を振りそうになるが、紛らわしいので自制する。
でも、がんばってくれ、東邦航空。
僕らの山小屋ゴハンは君たちの双肩にかかっている!
心からのエールを送りたい。

12:33、涸沢カールの全容が見えてきた。

嗚呼、、、生きていて良かった。

上の方に雲がかかっているのは残念だが、それでもこれほどまでの景色をありがとうと言いたい。
誰に伝えればいいのか分からないが。

などと喜んでいたのも束の間、ここから涸沢までの下りは、意外なほどに長く険しかった。

まず現れたのが、長い鎖場。

そしてハシゴ。

大キレットが終わって完全にお散歩コース気分での下山だったが、一気に現実に引き戻された。
そう、ここは穂高連峰。日本の屋根なのだ。

鎖やハシゴの無い箇所も、結局は岩がゴロゴロの決して歩きやすくはない道だ。

常念岳のトンガリが美しく、それだけが心の支えだ。

わざわざ狭い場所をルートに指定されてみたり、

やたら緩い角度の長いハシゴを降りてみたり、

スラブ状の長い鎖場を降りてみたりしながら、
どんどん標高を下げていく。

西側にはザイテングラート。
本当はあそこを歩いてみたかった。
と、ホゾを噛む思いで見ていると、急にガラガラッ!という音が、まさにザイテングラート方向から聞こえてきた。
落石だ!
落石の場所を特定しようと一生懸命探すも見つけられず。音だけが耳にこびり付いて、涸沢カールの怖さを脳裏に焼き付けられることとなった。

こんな石がゴロゴロのところを歩いていると、落石の音が脳内再生されるたびにドキドキしてしまう。

13:23、登山道はいよいよハイマツ帯の中に吸い込まれていく。

次第にハイマツだけでなく、背丈の低い樹木や草花も現れるようになってきた。


こうなってくると、俄然楽しくなってくる。
青や黄色の花が風にそよぐのを眺めたり、花弁にとまる虫を観察したり、すっかり夏休み気分だ。
もちろん、その分移動速度は極端に遅くなる。



まるでここは別天地だなぁ。

ラズベリーの一種か?

ナナカマドの色付きはまだまだ。

この花はグンナイフウロかなぁ。

などとウキウキしながら歩いているが、低木の樹林帯に入ってからもたびたび、三点支持の必要な場所が現れたりする。

そういった箇所の1箇所で、年配の女性2人パーティが、どこから下りるかでマゴマゴしていた。
それを尻目にスルスルと下りたところ、その年配のご婦人から、
「下から、足の置き場を見てくださらない?」
と声がかかる。
特に急ぐわけでもないので、アッチだコッチだと指定してやると、2人とも無事に降りてこれた。
それを見届けて立ち去ろうとする僕にご婦人は、
「ありがとうございました。きっと良いことがありますよ。」
と、ちょっとイキな感謝の言葉を投げかけてくれた。

その先も、手を伸ばせば届きそうな気がするのに、全然たどり着けない涸沢を眺めながらの下山がつづく。

13:59、尾根の影から、涸沢小屋の姿が見えた。

14:01、涸沢小屋に到着。

テラス席に座り、身支度を兼ねて10分間ほど休憩を取る。
思ったよりも足に来ているようで、随分コースタイムをオーバーしてしまった。

14:12、再び歩き出す。
涸沢小屋から涸沢ヒュッテへは、石段を降りたあと石畳の上を歩く。

石畳の左手には、コバイケイソウの群生地。
終わりかけのこの状態でも心奪われる景色であるのに、最盛期の美しさはいかばかりであったろうか。
僕の貧困な想像力では、とても考えられるものではない。

涸沢ヒュッテの手前では、平日にもかかわらずたくさんのテントが張られていた。
見ると、みな若い男女のパーティで、他の山域では見かけないようなリア充っぽい人々だった。
こんなところでソロテント泊だったら、さぞかし寂しいんだろうなぁ。。。

涸沢ヒュッテには立ち寄らず、そのまま本谷出合方面へ下りる。
が、その前に、涸沢カールをバックに写真を1枚。
自分の小ささを再確認できる、いい絵ヅラに仕上がった。
思い上がりそうになったとき、改めてこの写真を見て己を戒めようと思う。

14:23、パノラマコース方面に向かう雪渓の道が現れる。

残念ながら、僕のルートはこっちではなく、沢沿いを下りるルート。
真正面には、屏風の西壁の威圧的な姿が。

沢は水量もそこそこで、清流をたたえて、
次第に川となっていく。

横尾尾根と屏風の間からは、常念岳も見える。
やっぱり常念岳は美しい。

来し方を見ると、穂高連峰。

この先、登山道はすっかり樹林帯に入り、斜面も緩やかになる。

所々に置かれた「落石注意」の看板。
たしかに、落石がありそうなところだ。

横尾本谷には雪渓が少しだけ残っていた。

この地点からは遠くに一ノ俣谷(たぶん)も見えた。

ここからルートは東に向かう。
相変わらず登山道には石がゴロゴロだが、土も現れてきた。
こういうトレイルが心から好きだ。

横尾尾根のエグれっぷりもすごい。

15:28、本谷橋に到着。
よく見ると手前に小さな橋があるのだが、せっかくなので奥の長い吊り橋を渡った。

吊り橋から見た横尾谷の下流方向。
橋を渡りきったところに、道標があった。

横尾谷左岸から見る屏風岩は、すごいの一言。
僕が今更どんなに練習したところで、こんなところ登れる気がしない。

左岸の道は、なんとも平凡な登山道。ササとか生えてる。

とはいえ、カラフルな草木が目を楽しませてくれるわけで。

すっかり色づいたナナカマド。

アジサイ。

16:02、岩小屋跡に到着。
うーん、16時までの横尾山荘にたどり着けなかったかー。。。
やっぱり思ったよりも足に来ているらしい。

正直なところ、この先の広々とした川原は、本当にただ広々としているだけだった。
あまり面白いとも思わなかったので、写真は撮らず。

16:23、やっと横尾山荘の手前の吊り橋に到着。
これを渡ればいよいよ横尾山荘だ。
走り出したい気持ちを抑えながら、一歩一歩踏みしめる。

吊り橋の上から見た梓川。

16:25、横尾山荘到着。

受付にたどり着き、予約していない旨を告げても笑顔で応対してくれる。ありがたいことだ。

横尾山荘には、なんといっても風呂とシャワーがある。
しかも、、非常にキレイな風呂だ。
シャンプーも石鹸も使えないが、温かいシャワーを浴びるだけでも生き返る想いだ。

サッパリしたところで、ビールを買って山荘前の広場で一人しみじみと飲む。
奥穂高がハッキリと見えた。
ついに奥穂高の姿を見ることができた。
北穂高小屋で奥穂高行きを決断していたら、あの姿を間近で見ることができたに違いないと思うと、果たして今日横尾まで下りたのは本当に正しかったのだろうか。
こんなに天気が良いのに、本当に明日は天気が崩れるのだろうか。

その答えは明日になれば分かる。

17:50、夕食。
大変美味しくいただいて、部屋に戻り、読書をしつつ寝落ち。

明日の朝はのんびりだ。


(「4日目 横尾~上高地」につづく)








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